空手のまちわら訓練(上本町道場 田中文雄)

まちわら(巻き藁)

40年程前に某空手新聞に、スポーツ競技空手の全国組織団体でトップクラスのポストに君臨していた某有名大先生の記事があった。某大先生のたまわく「私は永年厳しい空手の修行をしてきた。その中で一つだけ無駄な訓練だったものがある。それは巻き藁訓練だ。いくら巻き藁を突いても拳が石や木よりも固くならないし、また組手競技の試合に何の効果もない」と述べていたのである。

これは笑止である。私はその某大先生に申し上げたい「貴方は拳を石や木よりも固くする目的で、巻き藁訓練をしていたのですか?」と。否、まちわら訓練は決して拳を石や木よりも固くすることを目的とするものではない。

まちわら訓練は、「目付け・間合い・両脚の踏ん張り・体軸と腰の安定・肩の沈め・肘の堕とし・脇の締め・胸の張り・腰の切れと切り返し・作用と反作用・抗力と反抗力・力の入れと抜き・拍子・呼吸等々を、様々な攻防のバリエーションをイメージして突きの効力を最大限に発揮できるようにする」ための究極の訓練である。

伝統沖縄空手とスポーツ競技空手の本質的な考え方の違いが、如実に顕れていると言える。

したがって硬いコンクリートの壁や、たわみのない柱や、或いはサンドバックやパンチングミットを打つような感覚で突くものでもない。本質的に違うのである。

東恩納寛量先生の言葉に

「百術一拳のこと。百術ありといえども、一命を運命(さだめ)るは一術一拳なり。最初にして最後の一拳のみなり。一拳に命を賭けること、武士の本体なり」

がある。まちわら訓練が究極の鍛錬であったことが想像できる言葉です。

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